歯周病とは歯の磨き残しにより歯周ポケットにプラーク(細菌の塊)が溜まることで、歯の周りの組織が炎症を起こす病気です。
歯周病になると、歯茎の腫れや出血・口臭だけでなく、症状の進行によっては噛み合わせの違和感や歯のぐらつきを感じるようになります。
歯周病の治療にかかる期間は、症状や進行度によって大きく異なるのが特徴です。初期なら1ヶ月程度、中期なら3ヶ月以上、重度になると1年以上かかる場合も少なくありません。
この記事では、歯周病の治療にかかる期間や治療の流れ・治療後の注意について詳しく解説します。
歯周病の治療にかかる期間
歯周病は段階的に病状が進行していくため、進行度によって治療にかかる期間も異なります。
歯茎に腫れや赤みを感じる程度の初期では治療期間も短く、歯科でのクリーニングやメンテナンスを数回行うことで完治する場合がほとんどです。
歯のぐらつきや食事の際に違和感を感じるほどの重度になると、治療期間も長くなります。
歯周ポケットや歯の根っこ部分に溜まった汚れを取り除いたり、炎症によって修復できなくなった組織を切除する場合に外科治療が必要になるためです。
歯や歯茎に違和感を感じたら、悪化する前に歯科で歯周病の進行度を確認してもらう必要があります。
症状と治療にかかる期間を、歯周病の進行度「初期」「中度」「重度」に分けて確認していきましょう。
初期の歯周病の場合
初期の歯周病では「歯がうずく」・「なんとなく歯に違和感を感じる」・「冷たい物が沁みる」といった症状が現れ始めます。
初期の歯周病の場合、約1ヶ月ほどの通院で改善することが多いため、通院回数も少なく済むことがほとんどです。
初期であれば外科的な治療は必要ありません。ブラッシングのような日常のセルフケアでは取り切れなかったプラーク(歯垢)や歯石を、専用の器具で取り除くクリーニングが行われます。
初期の段階で通院する人は少ないといわれていますが、歯周病の初期段階である歯肉炎のうちに処置をすることで通院期間も長くかかりません。
歯周病は別名「サイレント ディジーズ(静かな病気)」といわれるほど、症状や進行を自覚しにくいのが特徴です。
初期段階のうちに治療やメンテナンスを受け、病状を進行させないことを心掛けましょう。
中度の歯周病の場合
中度の歯周病の症状は「歯茎の腫れや出血」・「目に見えて歯茎が下がって歯が長くなった感じがする」・「食事の際に違和感を感じる」などです。
しかし、初期段階である歯肉炎同様、自覚症状がないことも多いです。
歯肉炎よりも症状は進行し、歯周ポケットの深くまで汚れが溜まって歯周組織が炎症を起こしています。
歯を支える骨が溶けて、歯のぐらつきや歯茎の腫れや口臭が気がかりになる人も多いです。
中度の歯周病になると、治療期間は3ヶ月以上かかります。クリーニングでは取りきれないプラーク(歯垢)を、数回の通院で少しづつ取り除く必要があるためです。
専用の器具でも除去できない汚れは、歯茎を切開して取り除く場合もあります。中度の段階でしっかり治療をすれば、歯を残すことができるでしょう。
重度の歯周病の場合
重度の歯周病になると「歯のぐらつきが大きくなる」・「歯茎の腫れ」・「噛み合わせが悪くなって咀嚼に支障が出る」などの深刻な症状が出てきます。
歯を支えている骨が3分の2以上溶けてしまっている状態のため、歯が自然に抜け落ちてしまう場合も少なくありません。
重度の歯周病の治療にかかる期間は、およそ6ヶ月から1年以上です。数年かかる場合もあります。
外科的な処置が必要となることもあり、噛み合わせや歯周組織の治療にも多くの時間がかかるためです。
他の歯にも影響を及ぼしている場合は、さらに追加で治療を行うため、通院期間が長くなる可能性もあります。
重度では歯を残すことが難しいかもしれません。歯科医師と相談のもと、最善の選択をするようにしましょう。
歯周病の治療の流れ
歯周病の治療は「問診」・「検査」・「プラーク(歯垢)や歯石の除去」・「状態の確認」の流れで行われます。
治療の主な目的は、日々のお手入れで取り切れなかったプラーク(歯垢)や歯石を除去し、歯周組織の炎症を改善させることです。症状が改善しない場合は、必要に応じて外科治療を行い、歯周組織の再建を目指します。
歯科での治療だけではなく、ブラッシングのような適切なセルフケアを継続して、悪化を防ぐことも重要です。
問診
歯周病の治療に入る前に、問診が行われます。問診で聞かれることは「痛みや違和感」・「出血の有無などの症状と期間」です。
また「持病や服用中の薬の有無」・「アレルギー」に加えて「喫煙習慣の有無」を確認する場合もあります。喫煙者は歯周病の進行が早いためです。
検査
問診の次は、検査です。検査では、歯周病が「どの程度進行しているのか」・「どのような治療が必要か」を歯科医師が判断します。
検査方法は、ブロープという専用器具で歯周ポケットの下がり具合を測定したり、歯のぐらつき具合の確認・口内の写真やレントゲンを撮ったりすることなどです。
レントゲンでは、目視では確認することができない歯の根っこ部分や歯を支える骨の状態を確認できます。
歯周病の進行状態を判断するために、骨が溶けていないかどうかの確認は必要不可欠です。
このような検査結果をもとに、歯周病の進行度を確認し、歯科医師が必要な治療を判断します。
プラーク(歯垢)や歯石の除去
歯周病の進行度を確認したあと、歯茎の炎症の原因になっているプラーク(歯垢)や歯石を専門的なクリーニングで除去します。
歯周病の原因となるプラーク(歯垢)や歯石を取り除くことは、症状の進行度に関わらず欠かせない手順です。
クリーニングは「ブラッシング」・「スケーリング」・「ルートプレーニング」の順で、必要に応じて行われます。
まずはじめに、歯科医師や歯科衛生士によって歯ブラシを使ったブラッシングが行われます。
日頃のセルフケアでプラーク(歯垢)や歯石が除去できていれば、歯周病にはなりません。正しい磨き方の練習や歯磨きの指導を受けることは、治療後の再発を防ぐために重要です。
スケーリングでは、歯の表面に付着した歯石を取り除きます。日頃のブラッシングによる癖や歯並びによっては、セルフケアではプラーク(歯垢)を除去しきれません。
スケーラーという器具を使用して、歯ブラシでは取りきれなくなってしまった歯石やプラーク(歯垢)を除去します。
ルートプレーニングとは、スケーリングでは除去しきれなかった歯周ポケット内・歯根面の歯石や、汚染セメント質を削り取る処置です。
また、歯根面を滑らかにする目的もあります。汚れを取り除いてから歯根面を滑らかにすることで、新たな歯石が付着するのを防いでくれるからです。
初期から中度の歯周病であれば、このようなクリーニングによって状態が改善することもあります。歯周病の治療では、歯石の除去がとても重要です。
状態の確認
治療がひと通り終了したら、最後に状態の確認です。
プラーク(歯垢)や歯石が除去されると、歯茎が歯にくっついて歯周ポケットが浅くなります。最後に歯周ポケットの深さを測って3mm以下まで浅くなっていれば治療は終了です。
歯周病は再発率が高いと言われています。歯科医院で数ヶ月に一度の定期メンテナンスを行うことで、歯周病の再発を防げるでしょう。
重度の歯周病の治療
歯周病が重度になると、歯茎の炎症にとどまらず歯を支える骨が溶けて歯がぐらつく場合もあります。最悪の場合は、歯が勝手に抜け落ちてしまうこともあるでしょう。
軽度の歯周病であれば、歯科医師や歯科衛生士によるクリーニングで改善していく場合がほとんどです。
一方、重度の歯周病になるとクリーニングだけでは改善しません。
目では確認できない深い部分の汚れを除去したり、炎症によって失われた組織の修復をしたりする外科的な処置が必要です。
歯茎を一時的にめくる・または切開して、歯周ポケット内部のプラーク(歯垢)や歯石を取り除き、溶けてしまった骨などの歯周組織を修復・再建する処置を行います。
どうしても歯を残せないと歯科医師が判断した場合は、抜歯を勧められるかもしれません。
一般的に歯を残したいと考える人は多いですが、歯を残すことで他の健康な歯や身体に影響を及ぼしてしまう場合もあります。
歯科医師とよく相談をして、最適な治療を受けるようにしましょう。
外科治療
クリーニングで改善しなかった場合は、外科治療が必要です。外科治療によって、目では確認できない部分の汚れを除去して炎症部分を治療します。
代表的な外科治療は「フラップ手術」です。フラップ手術では、歯茎をメスで切開してめくり、歯根に付着した歯石をけずり取ります。
他にも、歯根の汚れや細菌感染している歯茎を切除する「歯周ポケット掻把術」・溶けてしまった骨や歯周組織に働きかける「歯周組織再生療法」などがあります。
外科治療が必要な重度の歯周病が、数ヶ月で完治することはほとんどありません。完治までに1年以上かかる場合もあります。
歯周病の進行度に応じて必要な外科治療を行うことで、徹底的に汚れを除去し、歯周病の症状の改善を期待できるでしょう。
抜歯が必要な場合
歯や歯周組織の状態によっては、抜歯が必要な場合もあります。重度歯周病と診断される次の3点は、抜歯となりうる1つの基準として挙げられます。
- 歯周ポケットが6mm以上
- 歯槽骨吸収が歯根の1/3以上
- 歯の動揺度が大きい
他にも、虫歯が進行している場合は、複合的な理由で抜歯を勧められることもあります。
自分の歯を残したいと思う方は多いですが、骨に影響を与えたり噛み合わせが上手くできなかったりなどの問題がある場合は抜歯が最善の方法です。
抜歯をしたあとは、インプラントやブリッジ・入れ歯のような無くなった歯を補うための処置が必要になります。
歯科医師と相談のもと、納得のいく治療を選択しましょう。
歯周病治療を受けるメリット
歯周病治療を受けるメリットは「生活習慣病の予防」・「糖尿病の改善」・「年をとっても歯を残せる」などです。
生活習慣病のひとつであるメタボリックシンドロームと歯周病は関連しています。歯周病の治療により、メタボリックシンドロームの予防が期待できる可能性があるでしょう。
歯周病が治ると、歯や歯茎が安定して食事の際にゆっくりよく噛めるようになります。その結果、自然と唾液もよく出るようになって、消化を促すからです。
次に、動脈硬化の予防もできます。脳梗塞や心筋梗塞の原因となる動脈硬化は、ストレスや運動不足・食生活の乱れによって引き起こされると言われてきました。
しかし最近は、歯周病菌の細菌感染が原因の一つであるとも考えられています。
血圧・コレステロール・中性脂肪などの数値が高めであれば、脳梗塞や心筋梗塞のリスクは高いです。歯周病の治療は、そのような人にとって特にメリットがあるでしょう。
歯周病治療を受けることで、糖尿病の改善も期待できます。歯周病菌は、血糖値を下げるインスリンを効きにくくする働きがあるからです。
歯周病治療をすることで血糖コントロールが改善します。糖尿病と歯周病は、相互に関係しあっているといえるでしょう。
自分の歯でしっかり噛んで食事をすることには、メリットがたくさんあります。胃腸の負担を助けたり、脳の活性化やボケ防止・免疫力を高めるなどです。
自分の歯を残すことで、健康寿命を伸ばせます。歯周病治療を受けて、健康維持に努めましょう。
歯周病の治療後の注意点
歯周病の治療後には、次の3点に注意するようにしましょう。
- セルフケア
- 歯科での定期的なメンテナンス
- 生活習慣の見直し
まず欠かせないのは、自宅でのセルフケアです。歯肉炎を再発させないために、セルフケアは特に重要になります。
歯周病は、歯の磨き残しによってプラーク(歯垢)や歯石が歯に付着したまま放置することが原因で起こるからです。
自宅でのセルフケアでは、歯科で指導された正しいブラッシング方法を実践するようにしましょう。
また、歯間ブラシやデンタルフロスを活用することで、汚れを大幅に除去できます。
今までの口腔ケアのやり方や手段を見直して、歯周病の原因を取り除きましょう。
定期メンテナンスでは、歯茎や歯周ポケットのチェック・必要に応じてプラーク(歯垢)や歯石の除去を行います。
数ヶ月に一度は歯科の定期メンテナンスを利用して、歯周病や歯周病の前段階の歯肉炎になっていないかを確認するようにしましょう。
生活習慣を見直すことによって、歯周病のリスクは下がります。日々の食生活を見直して、栄養バランスの整った食事をするようにしましょう。
また、プラーク(歯垢)を増加させやすい軟らかい食べ物を減らし、プラーク(歯垢)が停滞しにくい繊維性の食べ物を積極的に摂ることでリスクを減らせます。
栄養の偏った食生活は、免疫力を低下させます。その結果、歯周病菌による攻撃に身体が弱くなり、せっかく治療した歯周病が再発してしまう可能性もあるでしょう。
また、喫煙者は非喫煙者よりも2〜8倍、歯周病になりやすいです。禁煙することで、歯周病にかかりにくくなります。外科治療や抜歯後の禁煙でも効果的です。
外科治療や抜歯後の禁煙でも効果的です。
日々の生活を見直して、歯周病にならない習慣を身につけましょう。
まとめ
歯周病の治療にかかる期間や治療の流れ・治療後の注意点について解説しました。
歯周病の治療期間は、進行度によって異なります。初期なら1ヶ月程度、中期なら3ヶ月以上、重度では1年以上です。
歯周病の治療は歯や歯周ポケットのクリーニングだけではなく、必要に応じて外科治療や抜歯を行う場合もあります。
歯周病の予防や治療をすることは、生活習慣病の予防・改善などにも効果的です。
セルフケアや日々のメンテナンスを欠かさないようにして、もし歯周病が疑われる場合は、早めに歯科を受診するようにしましょう。
参考文献