歯周病は歯茎の腫れ・出血といった症状が代表的ですが、悪化すると全身に悪影響を与える疾患であることが近年の研究で分かりました。
初期症状を見逃して歯周病が悪化してしまうと、心臓・脳などの重要な器官に悪影響を与えてしまい非常に危険です。今回は歯周病の合併症について解説していきます。
日常生活を見直す際の参考になれば幸いです。
歯周病の合併症は?
歯周病は放置しておくと、以下の合併症を引き起こすリスクが高まります。
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 関節炎
- メタボリックシンドローム
歯周病は口内環境が悪化し、細菌が繁殖する病気です。その繁殖した歯周病原菌は、歯周病が悪化すると口内にある血管から全身に回ってしまいます。
菌以外にも口内環境の悪化に反応し、身体に悪影響を与える酵素を放出するケースも存在します。 このように歯周病はさまざまな合併症を引き起こす原因になるため、症状初期に現れるサインを見逃さないことが重要です。
普段から歯磨きなどの口内ケアを行い、定期的に歯科医院で定期検診を受けましょう。
歯周病が全身に及ぼす影響
歯周病が悪化すると、体全体にさまざまな影響を与えます。上記で取り上げた合併症はその一部にすぎません。
そこでここからは歯周病が全身に及ぼす影響について、さらに掘り下げて解説していきます。口内ケアの重要性を改めて知るきっかけになれば幸いです。
妊娠中に歯周病になった場合や、妊娠前から歯周病に感染していた場合、早産・低体重児のリスクが歯周病に感染していない場合と比べ7倍近くになります。
これは歯周病の原因になった細菌が血管内を通り、胎盤で繋がった胎児に届くのが原因だと考えられています。 また妊娠中の女性は、妊娠していない状態の女性より歯肉炎になりやすいです。
これは妊娠中に多く分泌されるエストロゲンが、歯周病に関係する細菌の増殖に繋がるためだと考えられています。 妊娠によるエストロゲン増加が原因の歯周病は、妊娠性歯周炎と呼ばれています。
歯肉炎は歯周病の初期段階で発症する症状のため、妊娠中は定期的に歯科医院に通院し検査を受けましょう。
骨の密度が減少する骨粗しょう症ですが、歯周病に起因する骨吸収が起こるとそれと比例して骨粗しょう症も悪化することが近年の研究で明らかになっています。
全身の骨が脆くなる骨粗しょう症に罹患している患者さんは現在日本で1,000万人以上いるといわれています。そしてその9割が女性です。
これは骨の代謝にかかわるホルモンであるエストロゲンが、女性の閉経と同時に分泌量が低下するためだと考えられています。
エストロゲンが低下すると骨の代謝が下がるため、骨を支える歯槽骨(しそうこつ)も脆くなってしまいます。 骨粗しょう症と歯周病は、どちらも全身を構成する骨に関係する病気です。
病院で検査を受け、適切な治療を受け改善していきましょう。
近年の研究でメタボリックシンドローム(以降メタボ)になると多く発生するサイトカインと呼ばれるホルモンが、歯周病になった際に発生するホルモンと同一であることが分かりました。
生活習慣病の代表例であるメタボは、筋肉の下に内臓脂肪が蓄積され、高血圧・高血糖などさまざまな健康状態が悪化する症状です。
内臓脂肪が多いとサイトカインが多く分泌され、動脈硬化の悪化に繋がる原因になることが近年の研究で発見されました。動脈硬化は歯周病と関係した病気であり、循環器・脳血管疾患などさまざまな病気の原因です。
歯周病によりサイトカインが分泌されると、メタボによる動脈硬化のリスクが高まります。メタボにより身体の抵抗力が落ちると歯周病が悪化するため、お互いに症状を加速させるという指摘もされています。
メタボ・歯周病どちらかの診断を受けている人は、将来的にどちらも発症・悪化する危険性があると認識しておきましょう。
誤嚥性肺炎は口内の細菌が気管に入り発症する病気です。口内に残留した食事の残りカスが、喉の反射に間に合わず気管に入ることで発症するケースもあります。
歯周病は口内にさまざまな菌が繁殖するため、菌が喉から入り込む機会を増やす原因となります。 口内を清潔に保つように心がけることが、誤嚥性肺炎のリスクを引き下げるために重要です。
特に高齢者になると誤飲の可能性が高まるため、口内の細菌を少しでも減らすことで発症のリスクを下げることができます。
歯周病が関係する病気
歯周病が関係する病気は多岐にわたり、その発生個所もさまざまです。その理由は口内全体に広がる血管によって、歯周病の悪影響を全身に広げてしまうためだと考えられています。
ここからは、歯周病に関連する病気について解説していきます。歯周病が関係する病気をきちんと理解し、歯周病予防の意識を持ちましょう。
生活習慣や遺伝が原因で発症する2型糖尿病患者さんは、糖尿病でない人と比較し約2.6倍歯周病になりやすいことが報告されています。
更に糖尿病と歯周病どちらも発症している場合、歯周病の症状である歯槽骨の吸収が非糖尿病の歯周病患者さんより早いことも調査で分かりました。
歯周病と糖尿病の関係はこれだけではありません。歯周病の悪化により発生する歯周ポケットが改善されると、インスリンが利きやすくなり血糖値が下がりやすくなることが分かっています。
歯周病と糖尿病は相互に影響を与えるため、それぞれ専門医から治療を受け改善していきましょう。
上述してきたように、歯周病が悪化すると動脈硬化や血管を通して細菌を全身に広げてしまいます。その結果として、動脈硬化・心臓病・不整脈といった循環器疾患のリスクが高まってしまいます。
心臓に関する病気は細菌・動脈硬化どちらの影響も大きく受けるため、歯周病患者さんは健康な方と比べると約2.8倍心臓病を発症するリスクが高まり危険です。
酸素を送るために脳には多くの血管が張り巡らされています。歯周病菌により血管に沈着物ができると、脳梗塞のリスクが高まるため危険です。
歯周病患者さんは健康な方と比べ脳梗塞になりやすくなり、歯周病と脳血管疾患はお互いに悪影響を与えることが分かってきました。 そのためどちらの治療も行うことが、身体の健康状態を改善するために重要です。
歯周病の主な原因は?
ここまでは歯周病に関連する合併症や、お互いに影響を与える病気について解説してきました。歯周病の発症を防止するためには、なぜ歯周病は発症するのかを知る必要があります。
歯周病にならないためには口内ケアや生活習慣の改善が重要です。しかしそれだけではなく、普段の癖や睡眠時にも歯周病の原因は存在します。
歯周病の原因はさまざまな部分に存在するので、普段の生活を改めて見直してみましょう。
歯周病の原因として代表的なのはプラーク(歯垢)です。プラークは食べ物の残りカスが歯の表面につき、そこから細菌が繁殖したものを指します。
プラーク1mgの中には合計1億・種類にして300種類近くの細菌が存在しており、取り除かれずに溜まったままになると歯茎の腫れを引き起こします。
歯周病を引き起こす細菌の多くは酸素を嫌うため、酸素が多く存在する歯の表面では繁殖できません。そのため、歯茎のバリアを破壊して酸素が届かない歯と歯肉の隙間に深く入り込みます。
この歯と歯肉の間にできた溝が歯周ポケットです。この歯周ポケットを大きくしないことが、歯周病対策にとって非常に重要です。
タバコはニコチン・一酸化炭素を始めとした身体に悪影響を与える物質が多く含まれています。 ニコチンは血管を収縮させる作用を持っているため、歯ぐきの炎症による出血が抑えられてしまい、初期症状の見逃しに繋がります。
喫煙で一酸化炭素を身体に含むと免疫細胞の活動が低下し、歯周病悪化の原因になるため禁煙外来などで禁煙治療を受けましょう。
喫煙により一酸化炭素を身体に含むと、免疫細胞の活動が低下し歯周病を悪化させることがあります。 喫煙した状態で歯周病治療を行っても、免疫細胞の活動が弱まっているため非喫煙者と比べて効果が薄いです。
禁煙外来などで禁煙治療を受けることもできます。
花粉症・鼻づまり・肥満などが原因で発生する口呼吸は、頻繁に行っていると口内の乾燥が加速し唾液による自浄作用が低下します。頻繁に口呼吸を行っている場合、歯周病の原因になるため注意しましょう。
口呼吸の改善は口周辺の筋力トレーニングが一次的な効果を期待できますが、それでも改善しない場合歯並びの改善をはじめとした根本治療が求められます。
歯科医院によっては総合的な口呼吸の治療を行っているため、周辺の歯科医院を調べて口呼吸の治療を行うのも歯周病対策に繋がります。
ストレスや癖で歯ぎしり・噛みしめを行う人は少なくありません。しかし、こういった行動は口内に悪影響を与えてしまいます。
歯ぎしりは顎の骨が歪むだけでなく、歯が欠けてしまったり歯並びが悪くなることも珍しくありません。また顎関節症など顔全体の病気にも繋がります。 口内環境の悪化は歯周病と深く関わります。
もし歯ぎしり・噛みしめを自覚している場合は、一度歯科医に相談してみましょう。
上記で解説しましたが、糖尿病・骨粗しょう症は歯周病の悪化を引き起こします。歯周病が原因で全身疾患が引き起こされるように、全身疾患が原因で歯周病を引きこされることも珍しくありません。
特に血管・骨に関する病気は、歯周病に直結するケースが多いです。もしどこか不調を感じたら、速やかに各種専門機関で治療を受けるようにしましょう。
歯周病のセルフチェック
歯周病の検査は、歯科医院で受ける歯垢の染め出しが代表的です。しかし自宅でこのチェック方法を行うことはできません。 そのため自宅でセルフチェックを行う場合は、違う角度から行う必要があります。
幸いなことに鏡を使った目視での確認や、ブラシなどでの触診でセルフチェックが可能です。 どういった点に注目すればセルフチェックが行えるかを確認し、歯周病の初期症状を見逃さないようにしましょう。
歯周病は進行すると歯周ポケットが拡張し、歯と歯肉の間に大きな空間が出来てしまいます。そのため歯周ポケットが存在する部分の歯茎が、空間が出来て下がってくる場合が多いです。
歯周病は初期症状の歯肉炎や、初期歯周炎状態では痛みを感じることは殆どありません。そのため、これまでより歯が見えやすくなったり歯茎が下がったりしていないかのチェックが重要です。
歯磨きをする際は、定期的に鏡を見て確認するようにしましょう。
口臭は口呼吸による唾液の減少や、歯垢による細菌から発生する臭いなどによって発生します。他にも臭いの強い食事を行った場合や、消化器官の異常などでも発生するため原因の特定をセルフチェックで行うことは難しいです。
そのためセルフチェックで口臭があることを確認できた場合、まずはブラッシング方法の改善や生活習慣の見直しを行ってみましょう。それでも変化がない場合は歯科医院を受診し、原因の特定と治療を受けるのが効果的です。
口臭測定器や唾液の成分分析など、歯科医院ではさまざまな角度から口臭の原因を分析してくれます。家で行うセルフケアの相談にも乗ってくれるため、口臭が気になる方は是非一度歯科医院に相談してみましょう。
歯周病の初期段階として代表的なものは、歯茎からの出血です。普段と同じ力のブラッシングでの出血だけでなく、特に触れていないのに出血することも珍しくありません。
このまま出血を放置すると膿の発生にも繋がり、口内環境が更に悪化する危険性があります。セルフチェックで出血を確認した場合、速やかに歯科医院の受診を行いましょう。
歯茎の腫れは、歯茎の出血と並んで歯周病の初期症状です。歯茎の腫れは目視で確認できるものもあれば、ブラッシングを行った際にブヨブヨした触感で気づくこともあります。
また腫れ方も周囲の歯肉と色が変わらずに腫れる・白く変色し腫れるなどさまざまです。 白い腫れは最悪歯肉ガンである可能性もあるため、発見したら速やかに歯科医院に受診しましょう。
指やブラシで歯に触れた時にぐらつくのは、歯周病が中程度進行している状態と考えられます。健康な歯でもピンセットなどで掴んで動かすと、歯はある程度ぐらつきます。
これは生理的動揺と呼ばれ、歯と歯槽骨を繋げる膜が柔らかいため起きる現象です。しかしその生理的動揺を超えてぐらつく場合は、歯周病が原因で歯の土台が動きやすくなっている危険性があります。
歯磨きや食事中に歯がぐらついたと感じた場合は、歯科医院を受診しましょう。
歯周病の対処法は?
歯周病の対処法は進行度によって異なります。歯垢除去はブラッシング指導を受け自宅でのセルフケアで対処可能ですが、歯石になってしまった場合ブラシだけで取り除くことは難しいです。
歯周ポケットが深くなり、歯垢が溜まっている場合は歯科医院で除去治療を受けましょう。歯周病が重度まで進行してしまった場合、外科手術による歯茎の切開や最悪抜歯が必要です。
歯周病は治療と並行して予防が重要です。定期的に歯科医院でメンテナンスを受けながらブラッシングの方法を確認し、歯垢を取り除いていきましょう。
まとめ
今回は歯周病の合併症や症状について解説してきました。歯周病は口内環境だけでなく、全身に悪影響を与える症状です。 初期の段階でセルフケアや治療を受ければ、歯茎からの出血や抜歯を阻止できます。
歯科医院での定期健診を受け、口内環境を整えていきましょう。
参考文献
- 歯周病が全身に及ぼす影響|特定非営利活動法人日本臨床歯周病学会
- 全身疾患と歯周病|城山通りデンタルクリニック
- ④歯周病とメタボリックシンドローム|健生会相互歯科
- 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン|日本歯周病学会
- 歯周病治療|むとう歯科医院
- プラーク / 歯垢(ぷらーく)|e−ヘルスネット
- 歯周治療|医療法人社団開成会
- 歯周病と喫煙|山本歯科医院
- 歯周病治療|医療法人かわい歯科クリニック
- 歯ぎしり・食いしばり治療|西大路御池デンタルクリニック
- 歯ぐきから血が出る~歯周病治療~|せんげん台くすのき通り歯科
- 歯周病治療|クレスト歯科クリニック戸越
- 口臭治療|医療法人雅心会 中村歯科
- 歯周病と予防歯科|うえくさ歯科