歯周病で抜歯といわれても、抵抗を感じる方が多いでしょう。
確かに、歯科医院によっては、歯の状態が悪くても歯を抜かない治療に力を入れているところもあります。
しかし場合によっては、抜歯をせずにいると全体の歯並び・他の歯への細菌感染・全身疾患へのリスクが上がるなど、弊害が出てしまうこともあるのです。
では、どのようにして抜歯するかしないかが決められているのか、歯を温存する治療法はあるのか気になります。
そこで、この記事では歯周病で歯を抜かずに治す治療方法・抜歯の基準・抜歯が必要な理由・再発防止方法をご紹介します。
歯周病や抜歯に関して気になることがあれば、かかりつけの歯科医院にご相談ください。
歯周病とは
歯周病は、細菌により歯肉が炎症を起こしている状態のことです。原因となるのは歯周病原菌の繁殖です。
歯周病の主な症状は、歯茎の腫れ・出血・膿が出る・強い痛み・歯のぐらつき・ひどい口臭などがあります。
歯周病は歯肉炎から自覚症状の無いまま進行し、気づいた頃には非常に悪化した状態になってしまう場合がほとんどです。
最悪の場合、歯を支える骨が溶け、歯が抜け落ちてしまうこともあります。
このような状況にならないためには、症状が軽いうちに歯磨きの見直し・生活習慣の見直し・定期的な歯科検診を受ける必要があるのです。
歯周病を歯を抜かずに治す治療方法
この章では、このような歯周病で歯を抜かずに治す治療法についてご紹介します。
まずは、メスを入れずに歯石除去などを行い、原因となる歯周病原菌を減らすのです。
次に、菌の毒素によって溶けてしまった骨の再生を試みます。
ここまでの治療ができれば歯周病の症状は改善されますが、生活習慣を見直すなどをして再発を予防するというのが一連の流れです。
このような、歯周病の治療方法について詳しく解説します。
まず、見える範囲で歯石や汚れの除去を行い、症状の悪化を防ぎます。
しかし、歯周病にまで進行してしまった場合は、見える範囲内の歯石除去では不十分な場合がほとんどです。
深い部位までの進行が予想される場合、歯周ポケットの奥の状態や歯を支える歯槽骨の状態を確認するために、プロービング検査やレントゲン撮影を行います。
プロービング検査は歯周ポケットの深さを、レントゲン撮影では歯槽骨の破壊度合いと歯の状態が確認できます。
これらの検査によって歯の奥深くまで歯石除去が必要と判断されると、刺繍基本治療を行います。それでも改善が見込めない場合、フラップ手術などの別の治療法が行われるでしょう。
フラップ手術とは、歯茎にメスを入れ、歯の裏側や歯根などに付着した歯石や汚れを除去する治療のことです。
フラップ手術によって歯周基本治療で取りきれなかった歯石を除去し、歯周ポケットの改善を図ります。
歯周病の基本治療でも歯周ポケットが改善せず、その部位の骨欠損形態が再生療法に適している場合は、骨の再生を試みます。
骨を再生させる治療法として、歯周組織再生療法があるのです。
歯周組織再生療法には、GTR法とエムドゲインやリグロスという薬剤を使った方法があります。
GTR法とは、骨が無くなった部分に特殊な膜を挿入して再生を測るもので、骨の破壊が小さい場合に適応になるのです。
エムドゲインとは、エムドゲインという骨の成長因子を含んだ安全な薬剤を注入することで、骨の再生を図るものです。
リグロスとは、方法はエムドゲインと似ていますが、使う薬剤の名前がリグロスといいます。
このような歯周組織再生療法の大まかな流れは以下の通りです。
- 歯を支える骨の欠損部がある歯根部を露出させ、周りをきれいにする
- 骨の欠損部にエムドゲインやリグロスなどの薬剤や特殊な膜を留置します。
- 半年から1年ほどかけて骨が再生する
このような治療を行い、溶けた骨を再生させて症状の改善と安定を目指すのです。
治療の最後は、歯周病の再発を防ぐために、専門家による生活指導・歯磨き指導・定期的な検診が重要になります。
生活指導は、患者さんの状態によって食べ物・飲酒・タバコ・全身疾患など、適切なものをアドバイスします。
歯周病になりやすい食べ物は未だ明確になっていません。
糖が多いものや酸性の食べ物は齲蝕の原因といわれていますが、口腔内の環境を悪化させないためにも控えた方が良いでしょう。
これらはむし歯の原因となり、むし歯の菌が原因となって歯周病になる可能性もあるためです。
これらの食べ物は食べすぎない、または、食べたらより丁寧に歯を磨く必要があります。
また、過剰な飲酒は身体の免疫力を低下させたり、その他の生活習慣病の原因にもなったりします。
タバコに関しては、歯周病の症状の悪化・歯の着色・口臭の原因になり、歯周病予防のためには禁煙も視野に入れましょう。
これら食事・飲酒・喫煙などを気にかけると、歯周病予防に非常に効果的です。
歯磨き指導は、歯の形にあった磨き方・歯ブラシや歯磨き粉の選び方などの指導です。
定期的な検診は、3から6ヶ月に1回の頻度で行うことが推奨されています。
治療後の経過確認と再発予防のために重要になるので、症状がなくなっても検診を忘れないようにしましょう。
歯周病の時の抜歯の基準
歯周病になってしまっても、歯を抜くことに抵抗を感じる方は多いでしょう。
しかし、歯の状況によっては抜歯をしないと全体の歯並び・他の歯への細菌感染・全身疾患へのリスクが上がるなど、様々な問題が起こってしまうのです。
この章では、歯周病の時の抜歯の基準を解説します。歯を抜歯するかどうかは、以下の6点を目安に決まることが多いです。
- 歯周ポケットが6mm以上
- 歯槽骨吸収が歯根の1/3以上
- 歯の揺れが大きい
- 膿瘍が改善しない
- 歯根破折
歯周ポケットの深さや歯槽骨吸収によって、歯周病による感染の進行度がわかります。
歯の揺れ・歯根破折は、機能障害によって日常生活に支障がある場合が多いです。
これらの基準を目安に歯の状態を見ながら慎重に抜歯が検討されています。これら5つの基準について解説するので参考にしてください。
歯周ポケットの深さが6mm以上あると、歯周病(重度の歯周病)と判断されます。
深さが2から4mmで歯肉炎(軽度歯周病)、4から6mmで中度歯周病となり、最も進行した状態が6mm以上の歯周病なのです。
歯周ポケットの深さは、プロービング検査で測れます。
プロービング検査は、プロープという針状の器具を使って、入り口から底までの深さを測るのです。
このような歯周ポケットの深さのみで抜歯が決まるわけではありませんが、6mm以上あると抜歯の可能性が非常に高まります。
歯槽骨吸収とは、歯がはまり込む骨の破壊された程度を意味します。
つまり、歯槽骨の破壊が歯根の長さの1/3以上進んでいる場合は、かなり骨破壊が進んでいると判断されて抜歯になる可能性があります。
この歯槽骨吸収度は、レントゲンなどを使って歯根の部分の比率を確認することによって確認できるのです。
このように、歯周ポケットの深さ以外にも、歯槽骨の吸収度合いによっても抜歯が必要と判断される可能性があります。
歯を支える組織の破壊によって、歯の揺れが大きいと抜歯になる可能性があります。
なぜなら、歯の揺れが大きいということは、根の部分の組織の破壊が進んでいるからです。それでも抜歯と聞くと抵抗を感じる場合もあるかと思います。
しかし、この状態のまま抜歯せずに放置しておくと、感染が広がったり歯並びが乱れたりする恐れがあります。
これらのことを考慮にいれて、患者さんの意思も尊重しつつ慎重に治療方針を選択していきます。
歯周病の治療を行っても膿瘍が改善しない場合は、抜歯が必要になる場合もあります。膿瘍とは、歯茎の中に膿が溜まってしまう状態です。
このような膿は、虫歯や歯周病といった細菌感染が原因で炎症を起こし、白血球や細菌の死骸が溜まったものになります。
膿が出るのは、歯周病がかなり進行しているからです。そのため、抜歯が検討される場合もあります。
歯根が折れて保存療法が上手くいかない場合に、抜歯になる場合があります。
歯根破折が起きて抜かずに保存療法での改善を試みたものの、炎症・出血・腫れなどが収まらないこともあるのです。
そのような状態のときは、なるべく早めに抜歯を行ったほうがいいでしょう。
このように、歯根破折の時の抜歯は、状況を見て医師と相談しながら決めることをおすすめします。
重度の歯周病で抜歯が必要な理由
歯科医院で抜歯が必要だといわれても、歯を抜くことに抵抗を感じる方は多いと思います。
また、歯科医も患者さんの健康な歯をなるべく多く残したいので、抜歯はなるべく避けたいところです。
しかし、歯周病で歯の状態が悪く、歯を温存した治療が困難な場合は抜歯が必要になります。
では、抜歯をしないとどのような弊害があるのでしょうか。重度の歯周病で抜歯が必要な理由は下記の6点です。
- 歯周炎が起こっている周囲の歯槽骨の吸収などの組織破壊が起きる
- 歯列の乱れが起きる
- 他の歯への細菌感染が起きる
- 咀嚼力の低下する
- 噛み合わせが悪くなる
- 全身疾患の危険性が高まる
歯周病によってぐらつきの大きい歯を残しておくと、歯全体の乱れが起き、歯並びが悪くなってしまいます。
また、細菌感染が他の歯へも広がり症状の悪化や機能障害が酷くなるのです。
他にも、歯周病や虫歯をそのままにしておくと、糖尿病・菌血症・肺炎・心筋梗塞・脳梗塞といった全身疾患のリスクも高まります。
このように、抜歯をしないと身体のあらゆるところに弊害が起こる危険性があるのです。
歯周病の再発を防止する方法
ここまで抜歯の基準や抜かないことへの弊害について解説しました。
歯周病で歯の状態が悪くなってしまうと、これ以上症状を悪化させないために抜歯が必要になることがわかります。
そのため、抜歯をしないためには歯周病を予防する必要があるのです。
この章では、このような歯周病予防のためにできることを2つご紹介します。
歯磨きでプラークコントロールをすると歯周病の再発を防止できます。
プラークとは歯の表面に集まった細菌で、歯周病の原因になりますが、このプラークは適切な歯磨きで除去できるのです。
プラークをコントロールするための歯磨きのポイントを解説します。
- 1本1本の歯を丁寧に磨く
- 歯ブラシの毛先を立てるように隅まで磨く
- 優しい力で擦る
- 歯間ブラシやフロスも歯に合わせて使う
歯磨きで意識することは、ブラシの毛先を意識し、歯1本1本を丁寧に磨くことです。
歯をきれいにしたい一心で強く磨いてしまう場合もありますが、歯茎を傷つける原因になるため、優しい力で擦りましょう。
また、歯の形に合わせて歯間ブラシやフロスを使うのもおすすめです。
これらのことに気をつけて、正しい歯磨きを行い、歯周病を予防しましょう。
正しい歯磨きに加えて、定期的に歯科検診を受けることによっても、歯周病を予防できます。
自宅での歯磨きではなかなか歯垢は落としきれません。そのため、専門家による指導を受けることは非常に重要なのです。
この歯科検診は3から6ヶ月に1回の頻度で受けることが推奨されています。そのため、現在症状が無い場合でも、1度歯科医院で検診を受けてみるのがおすすめです。
まとめ
ここまで、歯周病で歯を抜かずに治す治療方法・抜歯の基準・抜歯が必要な理由・再発防止方法などをご紹介しました。
歯を抜かずに治すための治療手順は、まず歯石・汚れ・感染部位の除去を行い、次に薬剤や骨移植を行って歯や周囲組織の再生を図るという流れになっています。
症状が安定した後は、再発予防のために生活指導・歯磨き指導・定期的な検診を行うのです。
抜歯の基準も悪化防止・再発予防・全身疾患へのリスク軽減など、全体を考慮して決められていることがわかりました。
このように、歯周病になると高度な治療や難しい判断が必要になり、患者さん自身の負担も非常に大きくなるのです。
そのため、日々の歯磨きを見直すこと・定期的な検診を受けることによって歯周病を予防する必要があります。
参考文献