歯周病は、今や生活習慣病の一つとしても数えるほど身近な病気です。30代以上の3人に2人が歯周病であるといわれています。
初期の段階ではほぼ症状が現れないとされていますが、歯茎の縁が赤くなっていたり歯磨きの際に出血したりするなどの症状は、歯周病のサインでもあるのです。
これらの歯周病のサインが現れた初期段階であれば、普段の歯磨きなどで十分に改善が見込めるでしょう。
ただし、歯磨きの方法が間違っているとあまり効果を得られません。歯周病の改善を目指すには、どのように歯磨きを行えば良いのでしょうか。
今回は歯周病が気になる方の正しい歯磨きの仕方について徹底解説いたします。また、歯ブラシや歯磨き粉の選び方などもご紹介しますので、ぜひご参考になさってください。
歯周病改善には歯磨きが重要
一度発症すると完治までに長い期間を要する歯周病ですが、初期の段階では普段の歯磨きによって改善が目指せます。
口内に長時間食べかすなどの汚れが残ったままになると、口内細菌が繁殖しプラークと呼ばれる白いねばねばした塊を作り出します。
プラーク1ミリグラムの中にはおよそ1億~10億個もの細菌が生息しており、その中で特に毒素の強い細菌が、歯周病の発症や進行の原因となってしまうのです。
そのため、歯周病を改善するには普段から歯磨きなどで口内に汚れが残らないよう努めて、プラークを作らないことが大切だといえるでしょう。
プラークは歯の表面にしっかりと密着し口をゆすぐだけでは落ちないため、歯ブラシなどで残さず掻き落とさなければなりません。
磨き残しがないように歯磨きを行うには、正しい方法を身につける必要があるといえるでしょう。
歯周病の歯磨きの仕方
歯周病の改善には、毎日の歯磨きで口内を清潔にすることが大切だとわかりました。
しかし、毎日歯磨きをしているにも関わらず、歯周病の改善がみられないという方も少なくないのではないでしょうか。その場合は、歯磨きの仕方に問題があるのかもしれません。
歯磨きの際に、ただ歯ブラシで歯の表面を擦るだけでは歯周病の改善にはつながらないといえるでしょう。
歯周病の改善を目指すのであれば、歯ブラシの持ち方・歯ブラシの動かし方・歯磨きの回数などを意識して、丁寧に磨く必要があるのです。
それでは、歯周病の改善を目指せる正しい歯磨きの方法について、詳しく解説いたします。
普段何気なく使用している歯ブラシにも、正しい持ち方があります。まずは歯ブラシの持ち方についてみていきましょう。
歯ブラシの持ち方には、手全体で歯ブラシを持つパームグリップと指で歯ブラシを持つペングリップの2種類がありますが、歯周病の改善を目指すにはペングリップがおすすめです。
ペングリップは、ブラシ面を下に向け利き手の親指・人差し指・中指の3本で鉛筆を持つように柄の上部を掴む持ち方です。
歯ブラシの毛先がうまく使えるようになるため、歯と歯茎の間や磨きにくい箇所の汚れも落としやすくなるでしょう。
歯周病の改善を目的とした歯磨きでは、歯ブラシの動かし方にもいくつかのポイントがあります。
あまり意識せずに歯を磨く人は、歯の凹凸を無視して表面をまとめて大きく擦ってしまいがちですが、歯周病の改善を目指すには歯を一本ずつ丁寧に磨き上げる必要があるのです。
また、歯は複雑な形をしているため、どうしても磨き残しが出やすくなります。
特に、歯と歯茎の間は汚れが溜まりやすいにも関わらず磨き残しが出やすい箇所のため、意識して磨くことが重要だといえるでしょう。
これらを押さえたうえで、具体的な歯ブラシの動かし方についてみていきましょう。
歯の表側を磨く場合には、斜め45度程度の角度をつけて歯ブラシを歯と歯茎の間へあてます。そのまま細かく振動させるように左右へ動かし、全ての歯を磨きます。
歯を磨く際、汚れを落としたい一心でつい力を入れすぎてしまうこともありますが、歯周組織は傷つきやすいため、毛先が開かない程度の弱い力で行いましょう。
歯の裏側を磨く場合も、表側と同様に歯と歯茎の間を細かく振動させるように磨きます。
前歯の裏側など歯ブラシを横向きにあてづらい箇所では歯ブラシを縦向きに持つと磨きやすくなるでしょう。
また、歯並びが不規則で歯が飛び出したり引っ込んだりしている箇所にも、この方法が有効です。
厚生労働省の調査によると、およそ半数の方が一日に2回歯磨きを行うことがわかっていますが、歯周病の改善を目指す場合には一日3回毎食後に磨くことをおすすめします。
先述したとおり、口内に長時間食べかすなどの汚れが残っていると、プラークが発生する原因となり歯周病を悪化させる恐れがあります。
プラークは一度付着すると、2~3時間程度で厚く積み重なる特徴があるため、食後すぐに歯を磨いてプラークの発生を防ぐことが望ましいです。
歯周病の歯ブラシの選び方
歯周病は重症化すると抜歯を余儀なくされることもあるため、軽症のうちに正しい歯磨きで改善したいものです。
歯周病の改善を目指すには、もちろん正しい歯磨きを行うことが重要ですが、その効果をより発揮するためには歯ブラシ選びも大切なポイントとなります。
さまざまな種類がある歯ブラシですが、選ぶ際には以下のポイントを押さえると良いでしょう。
- 歯ブラシの形状
- 毛の柔らかさ
- 毛の素材
ここでは、歯周病の歯ブラシの選び方について詳しく解説いたします。
歯ブラシを選ぶ際には、まず歯ブラシの形状に注目してみましょう。
歯周病の改善を目指す歯磨きでは、汚れを隅々まで落とすことが非常に重要です。
しかし、歯ブラシのブラシ部分(ヘッド)が大きすぎると口の奥まで入りきらず、奥歯の磨き残しが出る恐れがあります。
また、柄の部分が太すぎると、奥歯や歯の裏側を磨く際に口や他の歯にあたって上手く動かせなくなることもあるでしょう。
そのため、歯ブラシを選ぶ際には、ヘッドが小さく柄が細いものを選ぶことをおすすめします。加えて毛足が短く毛が密集しているものであれば、より汚れを落としやすくなります。
次に、歯ブラシの毛の柔らかさを選ぶポイントについてみてみましょう。
歯ブラシの毛は、一見同じようでも硬さに違いがあります。主にかため・ふつう・柔らかめの3段階に分かれていることが多いです。
健康な歯茎の人であればかための毛で磨いても問題ありませんが、歯周病が気になる人の場合は歯周組織が傷つきやすいため、ふつうか柔らかめの歯ブラシがおすすめです。
歯の汚れを落とすためにある程度は毛のコシが必要ですが、歯茎の腫れや出血が気になる人は、炎症が治まるまでは柔らかめの歯ブラシで優しく丁寧に磨くようにしましょう。
歯ブラシを選ぶ際には、歯ブラシの毛の素材も注目すべきポイントです。
歯ブラシの毛の素材には、ナイロンやポリエステルといった人工毛の他に、馬や豚の毛から作られた自然毛があります。
人工毛は、速乾性に優れ雑菌が繁殖しにくいという特徴を持っており、ほとんどの歯ブラシに使用されています。
人工毛と聞くと何となく硬そうなイメージがあるかもしれませんが、柔らかめの毛や毛が先端に向かって細くなっているテーパード毛を選ぶと硬さが気にならないでしょう。
一方、自然毛は人工毛よりもやわらかくコシがあるため、歯茎の痛みや出血がひどい人にはおすすめです。
ただし、自然毛は吸水性が高く雑菌が繁殖しやすいというデメリットがあるため、使用後すぐによく乾かす必要があります。
清潔さを考慮すると、ナイロンなどの人工毛を使用することがおすすめですが、ご自身の口内環境に合わせて選ぶと良いでしょう。
歯周病の歯磨き粉の選び方
歯磨き粉は、歯ブラシと併用すると口内の清掃効果をより一層高めてくれるため、歯周病の改善を目指す歯磨きでも積極的に取り入れたいアイテムです。
歯磨き粉も歯ブラシと同様に多くの種類が販売されていますが、種類が多すぎるとどれを選ぶべきか迷ってしまうものです。
歯周病対策で使用する歯磨き粉を選ぶ際は、どのようなことに注目すると良いのでしょうか。ここからは、歯周病の歯磨き粉の選び方について解説いたします。
日本で販売されている歯磨き粉のほとんどは、薬用成分が配合されている医薬部外品のものです。
多くの種類がありますが、歯周病の改善を目指す人の場合は、歯周病対策に優れた成分が配合された歯磨き粉を使用すると良いでしょう。
しかし、医薬部外品の歯磨き粉の成分表には見慣れない成分名が多数記載されており、専門家でない限りその効能はわからないものです。
ここで、歯周病の改善に役立つ歯磨き粉の代表的な効能と薬用成分について、いくつかご紹介します。
- 殺菌作用(塩酸クロルヘキシジン・トリクロサン・塩化セチルピリジニウム)
- 抗炎症作用(グリチルリチン酸類・ヒノキチオール)
- 止血作用(トラネキサム酸)
- 歯茎の引き締め作用(塩化ナトリウム)
上記のような成分が含まれている歯磨き粉は、歯周病対策に有効だといえるため、歯磨き粉選びの目安として押さえておきましょう。
歯周病では、歯茎が炎症を起こしているケースが非常に多いです。そのため、歯磨き粉を使用する際にも、歯茎を傷つけないタイプのものを選ぶことをおすすめします。
歯磨き粉には、ホワイトニング効果や使いやすさを重視して、研磨剤や発泡剤が含まれているものがあります。
しかし、これらの成分は歯磨きの際に歯の表面や歯茎を傷つけてしまう恐れがあるのです。
そのため、歯茎が傷つきやすい歯周病の人には、研磨剤や発泡剤が含まれていない歯磨き粉がおすすめです。
歯磨き粉には、歯周病対策に加えて虫歯予防ができるものもあります。
虫歯と歯周病は原因菌や症状も全く異なりますが、口内の清潔を保つためにも、虫歯の予防もできる歯磨き粉を使用すると良いでしょう。
虫歯予防に有効な薬用成分は、先述した塩酸クロルヘキシジン・トリクロサン・塩化セチルピリジニウムに加えて、以下の成分が挙げられます。
- フッ化ナトリウム
- モノフルオロリン酸ナトリウム
- フッ化第一スズ
これらの成分には、歯の再石灰化を促進させ歯を強くする作用があるため、虫歯の予防につながるのです。
歯周病の改善を目的とした歯磨き粉選びをする際は、歯磨き粉の成分に注目してみましょう。
歯磨き以外の歯周病の予防方法
ここまで、歯磨きでの歯周病対策について解説いたしましたが、歯周病には歯磨き以外にも予防策がいくつかあります。
歯磨き以外の歯周病の予防策として、生活習慣の見直しと定期的に歯科で検診を受けることが挙げられます。
歯周病の原因は口内の汚れやプラークだけでなく、生活習慣も大きく関係しています。
先述したとおり、歯周病は生活習慣病の一つとされていることからも、生活習慣との関係性が非常に深いことがわかるでしょう。
生活習慣が関係する歯周病の主な原因として、以下のようなものが挙げられます。
- 糖尿病
- 喫煙
- 不規則な食習慣
- ストレス
特に喫煙は全身の血行が悪くなるため、歯茎の血行を著しく悪化させ歯肉の萎縮を招き、歯周病のリスクが大幅に上がってしまう恐れがあります。
そのため、重度の歯周病を患う人には禁煙を勧めるケースも少なくないのです。
上記のような習慣がある方は、歯周病になるリスクが高いといえるため、生活習慣を見直し定期的に歯科で検診を受けることをおすすめします。
定期的に歯科で検診を受けることも、歯周病予防には効果的です。
歯科では歯ブラシでは届かない箇所のクリーニングを行えるため、定期的に通って口内を清潔にしてもらえます。
また、歯石の除去をしてもらうことで、歯周病リスクをさらに低下させられます。
加えて、歯科衛生士から自身の歯に合った歯磨き指導を受けられるため、自宅でのセルフケアの向上にもつながるでしょう。
歯石やプラークの除去に加え、歯磨き指導など、定期的に歯科へ通うことで歯周病予防のさまざまなメリットがあるのです。
口内の健康は食事などの生活の質(QOL)にも深くかかわっているため、歯周病発症の有無にかかわらず、定期的に歯科検診を受けることをおすすめします。
まとめ
今回は、歯周病の歯の磨き方について詳しく解説いたしました。
身だしなみの一環として行う歯磨きでも、磨き方を意識して行えば歯周病の改善も望めるため、ぜひ正しい歯磨きを普段の生活に取り入れたいものです。
また、歯科では正しい歯磨き方法の指導を受けたり歯磨きでは落としきれない汚れを一掃できたりするため、歯周病対策として定期的に通院することもおすすめです。
歯周病は非常に多くの人を悩ませる病気でもあるため、発症の有無にかかわらず対策を取ることで、将来的に生活の質を落とすリスクも減らせるでしょう。
自宅での正しい歯磨きや歯科を上手に利用して歯周病対策を行い、自身の歯を多く残せるよう努めましょう。
参考文献
- 歯周病とは?|特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会
- プラーク(歯垢)と歯石とは?|医療法人 徳真会グループ
- 患者さんからの素朴な疑問|日本大学松戸歯学部付属病院
- 歯みがきの基礎知識について|医療法人 徳真グループ
- ブラッシング|歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020
- 歯科疾患実態調査:結果の概要|厚生労働省
- 自分に合う歯ブラシを、どのように選んだらいいでしょうか?|医療法人 徳真会グループ
- ブラッシング|歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020
- 歯みがきを助けるもの(電動歯ブラシ・歯磨剤・洗口液)|e-ヘルスネット[情報提供]
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